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東京地方裁判所 平成9年(ワ)13748号 判決 1998年9月18日

原告

窪田かづ子

外三名

右原告ら訴訟代理人弁護士

榎本武光

城崎雅彦

被告

石渡俊弘

右訴訟代理人弁護士

鳥飼重和

多田郁夫

森山満

遠藤幸子

村瀬孝子

主文

一  被告は原告窪田博に対し金一〇五万円、原告窪田典子に対し金一〇〇五万円、原告窪田裕一に対し金一〇五万円及びこれらに対する平成九年七月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告窪田かづ子の請求並びに原告窪田博、原告窪田典子及び原告窪田裕一のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち、原告窪田博、原告窪田典子及び原告窪田裕一に生じた費用の二分の一を被告の負担とし、その余は各自の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

被告は原告窪田かづ子に対し金七五万円、原告窪田博に対し金一八〇万円、原告窪田典子に対し金三一九二万一七〇〇円、原告窪田裕一に対し金一八〇万円及びこれらに対する平成九年七月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  請求原因

1  窪田隆良は平成六年一月九日死亡して相続が開始し、法定相続人は、その妻である原告窪田かづ子、長男である原告窪田博、長女である原告窪田典子、養子である原告窪田裕一の四名である。

2  亡窪田隆良の相続財産は、そのほとんどが不動産であった。

3  原告らは、税理士である被告に対し、平成六年二月ころ、相続税の申告手続を依頼し、また、原告らは被告の求めに応じ、相続税の申告に関して、平成六年一二月二六日に二〇〇万円、平成七年七月二七日に一〇〇万円の合計三〇〇万円を支払った。

4  原告らは、被告に対し、右依頼にあたって、

(一) 相続人間には遺産分割をめぐって何らの紛争もないこと、

(二) 被相続人亡窪田市太郎に関する相続税の支払も残っており、原告らにとって相続税の負担が大変厳しいものであること、

(三) そのため、将来の相続のことは特段考慮することなく、専ら今回の相続税額を低くしてもらいたいこと、

を重ねて説明し、被告もこれを了解した。

5  被告は、平成六年一〇月、遺産分割協議書を作成して原告かづ子に示した上、原告かづ子が所持していた他の原告を含む相続人全員の印鑑を押印させ、同月二八日、右遺産分割協議書を含む必要書類を整えて、船橋税務署長宛に相続税の申告手続を行った。

6  ところが、被告が行った税務申告に関し、次のとおりの事実が判明した。

(一) 被告の作成した申告書類には、原告らが被告に提示した資料から当然判明するはずの住宅金融公庫からの二億円余りの借入金が脱漏していたばかりか、債務控除として計上できる右借入金利息分一〇二万一七七六円のほか、平成五年分・六年分の固定資産税及び平成五年分未払住民税合計五二九万一〇〇〇円の総合計六三一万二七七六円が漏れていた。

(二) 本件では、相次相続控除分として、限度額二三四五万五四二〇円の税額控除が受けられるはずであったが、この控除を全く受けていない。

(三) 遺産分割協議書作成に際しては、住宅金融公庫からの借入金債務の存在を念頭に置いていないために、借入金全額を原告かづ子が負担するものとし、その結果、配偶者の税額軽減措置を限度額いっぱいに利用できなかった。

7  前項(一)ないし(三)を踏まえて申告すべき内容は、別紙「本来申告すべき相続税の内容」記載のとおりである。

原告博、原告典子及び原告裕一は、被告に代えて福島晴雄税理士に依頼し、船橋税務署長に更正を求め、前項(一)及び(二)に記載した点を認めさせて更正の決定を受け、合計一六九九万九五〇〇円の減額を受けることができた。右更正の決定の内容は、別紙「更正の決定その三」のとおりである。

8  原告らの依頼の趣旨に反した被告の前記税務申告は、被告の過失に基づくものであり、これによって原告らは次のとおり損害を被った。

(一) 過大に納めた相続税額分

原告典子 三〇一二万一七〇〇円

(二) 被告に支払った申告費用分

原告かづ子、原告博、原告典子、原告裕一 各七五万円

(三) 福島税理士に支払った税理士報酬

原告博、原告典子、原告裕一

各一〇五万円

9  よって、原告らは被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償として、請求の趣旨記載の金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4のうち、(一)は認める。(二)のうち、被相続人亡窪田市太郎に関する相続税の支払が残っていた事実は認めるが、相続税の負担が原告らに大変厳しいという点は大げさである。他の相続事案に比べると、その負担はそれほど厳しいものではなかった。(三)のうち、今回の相続税額を低くしてもらいたいとの依頼があった事実は認める。しかし、相続開始後の節税は税法上限定されているから、節税にも自ずから限界がある。しかも、相続税の節税を考えるには、将来の相続のことを考慮すべきは当然であり、被告はそのことを原告らに説明し、納得の上依頼を受けた。したがって、将来の相続のことは特段考慮することなく、専ら今回のみの節税を依頼し、被告の了解を得たとの主張は否認する。

3  同5の事実は認める。ただし、遺産分割は原告らの間で協議がなされ、合意に達したものであり、被告は右合意に基づいて遺産分割協議書を作成したのである。

4  同6のうち、(一)の事実は認める。ただし、住宅金融公庫からの借入金については、被告が何度も原告らに確認したが、原告らはそのたびにないといっていたものである。平成五年分の固定資産税及び住民税についても、原告らからは未払いであるとの報告はなかった。(二)の事実は認める。(三)の事実は争う。

配偶者控除を確実に限度額まで用いるための方法としては、各相続人がすべての財産を各々の法定相続分ずつ相続して共有とする方法や、原告かづ子が全部の財産を相続する方法などが考えられる。しかし、すべての財産を共有とすると、相続税の物納が困難となる。また、すべての財産を原告かづ子が相続するならば、今回の相続において窪田家にとって一番良い土地を物納財産とするよう税務署から求められる恐れが大きくなるし、将来予想される原告かづ子の相続における相続税額が高額となることが予想され、窪田家にとって損となる可能性がある。そのため、原告らの意向を十分に生かし総合して納税者に有利な相続とするためには、原告かづ子の相続分をぴったり二分の一とするよう遺産分割の協議をすべきことになる。

ところが、亡隆良の遺産には不動産が多く、その中には空室の多い貸家等まで含まれているため、その評価について納税者の見解と税務署の見解が異なるおそれがある。配偶者控除の適用を受けるためには、遺産分割が完了していることが必要であるため、当初の納税者の評価を前提として遺産分割をすることになるが、これらの物件の評価が税務署にも是認されるとは限らない。後に税務署で評価の見直しがあり、その結果配偶者の相続分が五〇パーセントでなくなる可能性もある。しかも、相続発生当時、亡隆良は、父である亡市太郎の相続の件で既に八年間も係争中であったため、亡隆良の遺産の範囲そのものがどのように変わるか確定できない状況であった。

このような理由から、配偶者控除を限度いっぱいに用いることは困難になる可能性があった。

住宅金融公庫からの二億円余りの借入れについては、被告は、住宅金融公庫から融資を受けることが決定しているが、まだ融資が実行されていないと聞いていた。被告が右融資の実行がされていることを知ったのは、平成七年一一月二八日、税務調査が終わった後に原告かづ子が持ってきた書類を見た際である。被告は、平成六年一〇月二六日、原告かづ子及び原告博に会い、被告の作成に係る遺産分割協議書を二人に示して、財産及び債務に計上漏れがないか確認した。これに対し、原告かづ子と原告博は、財産及び債務に計上漏れがないと返答した。被相続人にいくらの債務があるかは、相続人の方が十分認識しているものであり、しかも、二億円余りもの多額の債務を相続人である原告らが発見できず、資料を提供しなかったこと自体不自然である。原告らは、自ら負うべき責めを被告に転化しようとして被告を責めているのである。

5  同7及び8の事実は争う。

三  抗弁

原告らは、被告から相続税申告書や遺産分割協議書を申告期限から約五〇日前に送付されているので、これを確認する時間的余裕があり、また、被告から説明を受ける機会もあった。一方、二億円余りの借入れは原告らの相続した借入金の三分の一にも当たる巨額なものであり、一目瞭然である。したがって、二億円余りの借入金の計上漏れに気がつかないままに申告したことについて、原告らには相当の落ち度がある。

また、原告らは、被告から、「相続財産に関することで何かあったら直ちにいってください」と繰り返しいわれているにもかかわらず、平成六年一一月二五日、住宅金融公庫総額決定通知を被告に一言も相談せずに提出している。もしこの時点で被告に相談があれば、二億円余りの借入金について、原告らが希望するような取扱いもできた。この点についても原告らに相当の落ち度がある。

被告は、平成九年四月上旬の原告らとの電話でのやり取りの中で、被告が税務署にかけあって、相次相続控除等の控除をする余地及び遺産分割に関してのやり直しをすることが考えられることを話しているのに、原告らは遺産分割に関してはそのような試みをしなかった。現に相次相続控除については減額更正の嘆願が認められているように、遺産分割についても、そのような試みをしていれば、現在原告らが求めているような遺産分割方法となる可能性はあった。したがって、そのような試みをしなかった原告らにも相当の落ち度がある。

四  争点

1  被告が亡隆良の相続税の申告手続を行った際に、住宅金融公庫からの借入金債務の存在を念頭に置かないまま遺産分割協議書作成の事務を行い、配偶者の税額軽減措置を限度額いっぱいに利用できないこととなったことが、被告の過失といえるか。

2  被告の右行為に過失があった場合の原告らの損害の額

3  原告らに過失相殺の対象となる過失があったといえるか。

第三  争点に対する判断

一  被告が亡隆良の相続税の申告手続を行った際に、住宅金融公庫からの借入金債務の存在を念頭に置かないまま遺産分割協議書作成の事務を行い、配偶者の税額軽減措置を限度額いっぱいに利用できないこととなったことが、被告の過失といえるか。

1  原告らが、税理士である被告に対し、平成六年二月ころ、相続税の申告手続を依頼したこと、原告らが右依頼に当たり被告に対し、相続人間には遺産分割をめぐって何らの紛争もないこと、被相続人亡窪田市太郎に関する相続税の支払も残っているので、原告らとしては、今回の相続税額をできる限り低くしてもらいたいと考えていることを被告に伝えたこと、被告が右相続税の申告手続の前提として、亡隆良の遺産に関する分割協議書案を作成し、相続人全員の押印を得て、これを相続税の申告に使用したことは、当事者間に争いがない。

2  原告らは、被告が右相続税申告書類を作成するに際し、住宅金融公庫からの借入金債務の存在を念頭に置かないまま遺産分割協議書作成の事務を行い、その結果、原告らは配偶者の税額軽減措置を限度額いっぱいに利用できないこととなったと主張するので、この点について判断する。

(一) 被告は、その本人尋問において、遺産分割協議書案を作成する際に、原告らに対して資料を提示するよう促していたにもかかわらず、原告らから住宅金融公庫からの借入れに関する資料の提示が全くなかった旨供述し、被告本人尋問から認められる被告の税理士としての経験及び事務処理状況からみて、被告が右借入れの存在を示す明らかな資料の提示を受けているにもかかわらず、右借入れを前提としない遺産分割協議書案を作成したとは考えがたいから、被告は、右供述のとおり、住宅金融公庫からの借入れに関する明瞭な資料を入手しないまま遺産分割協議書案を作成したものと認められる。

しかし、被告本人尋問の結果によれば、被告は、右相続税の申告作業を税理士や公認会計士の資格を持っている他の職員と共同して行っていたこと、右相続税の申告作業前の所得税の確定申告の段階で、確定申告の作業の時期だけに手伝いに来てくれる公認会計士である職員が、亡隆良が建築資金の借入れ入金やその支払用に使っていた銀行口座の通帳(甲第七号証)の提出を受けたこと、その通帳には、住宅金融公庫からの借入金の入金を示すものとして、平成五年七月二九日付けで「ジュウコウ 120、000、000」及び同年一一月二九日付けで「ジュウコウチュウカンキン 80、320、274」と記載されていたことが認められる。

右認定事実によれば、被告の税理士としての事務の履行補助者である職員が住宅金融公庫からの二億円余りの借入れについて明瞭に記載された資料の提出を原告らの側から受け取っていたことが認められるのであるから、被告としては、亡隆良の相続税の申告事務を行うにあたり、原告らの側から、右借入れを認識すべき明瞭な資料の提出を受けていたものと認めるのが相当である。

(二)  被告は、右認定のとおり、原告らの側から、右借入金債務の存在を認識すべき明瞭な資料の提出を受けていたものであり、しかも、相続人間に遺産分割に関する争いがなく、被告の助言を受け入れうる態勢にあることを承知しており、また、原告らが当面の相続税の額をできる限り少なくしてもらいたいとの希望を持っていることも承知していたのであるから、対価を得て税務事務を行う被告としては、原告らが遺産分割協議をする際の資料ないし選択肢の一つとして、右借入金債務の存在を念頭に置いて、その場合に原告かづ子の配偶者控除をできる限り多く使えるような遺産分割協議の方法はどうであるかについて、遺産分割協議書案の提示又はそれに代わる助言をすべき職務上の義務があったといえる。

(三)  ところが、被告は、住宅金融公庫からの二億円余りの借入金債務の存在を現実に認識しておらず、その結果、少ない額の配偶者控除しか得られない遺産分割協議書案のみを原告らに提示し、原告らにとってより有利な遺産分割の案がありうることを提示ないし助言しなかったのであり、これによって、原告らは、より有利な税務申告の方法を検討する機会を失ったものである。したがって、被告にはこの点について過失があり、被告の右過失のある事務は、原告らに対し、不法行為を構成するものというべきである。

(四) もっとも、弁論の全趣旨によれば、亡隆良の遺産には不動産が多く、その中には空室の多い貸家等まで含まれているため、その評価について納税者の見解と税務署の見解が異なる現実のおそれがあったことが認められ、また、依頼者から当面の税額を少なく申告したいとの希望があったとしても、それでは後の税額が不相当に大きくなるような場合には、その旨の助言をするのが対価を得て税務処理を行う者としての務めであり、さらに、そもそも遺産分割をどのように行うかは相続人が各自の意思で決定することであることからすると、相続人に対し配偶者控除が限度額いっぱい使えるような遺産分割を勧めることが税理士の職務上の注意義務であるということはできない。しかし、そうであるとしても、被告が本件税務申告事務を行うについて右のとおり過失があったことは否定できない。

二  原告らの損害

1  福島税理士に支払った税理士報酬

原告博本人尋問の結果によれば、原告らは被告の税務申告事務に疑問を感じ、福島税理士に依頼して税務申告の見直しをしてもらったところ、配偶者控除に関する問題を含め、いくつかの問題点が分かり、配偶者控除の問題以外の問題点については、原告らの希望どおりの更正が認められ、合計一六九九万九五〇〇円の減額を受けることができたものの、配偶者控除については、更正の方法を見いだすことができなかったこと、原告らは福島税理士に対し、右見直しの事務の対価として、原告博、原告典子及び原告裕一において、各一〇五万円の報酬を支払ったことが認められる。

前記一認定の被告の過失の内容からみて、福島税理士が被告の税務申告の見直しの事務の対価として原告博、原告典子及び原告裕一が支払った金員は、右原告らの損害と認めることができる。

2  過大に納めた相続税額分

被告が住宅金融公庫からの二億円余りの借入金債務の存在を現実に認識しておらず、その結果、少ない額の配偶者控除しか得られない遺産分割協議書案のみを原告らに提示し、原告らにとってより有利な遺産分割の案がありうることを示さず、これによって、原告らは、より有利な税務申告の方法を検討する機会を失ったものであり、弁論の全趣旨によれば、仮に配偶者控除を最大限使用したとすれば、計算上は、原告典子において、今回の税務申告においては、三〇一二万一七〇〇円の相続税を少なく納付すれば足りたことが認められる。

しかし、次のような問題があるので、この金額の全額が原告典子の損害であるということはできない。

(一) 前記一認定のとおり、亡隆良の遺産には不動産が多く、その中には空室の多い貸家等まで含まれているため、その評価について納税者の見解と税務署の見解が異なるおそれがあったことが認められるのであり、本件においては、後に税務署で評価の見直しがあり、その結果配偶者の相続分が五〇パーセントでなくなる可能性も、現実に相当程度あった。

(二) 原告典子は、被告の作成した遺産分割協議書案に基づく遺産分割協議により、現実に分割に係る遺産を取得したのであり、原告かづ子と原告典子の年齢及び家族関係を考慮すると、原告かづ子の配偶者控除を最大限に利用する遺産分割協議をした場合には、後に生じる相続において原告典子の相続税が増加する蓋然性が高い。この点は、原告典子の損害の減額要素として考慮すべきことになる。

(三) 遺産分割をどのように行うかは相続人が各自の意思で決定することであり、相続人に対し配偶者控除が限度額いっぱい使えるような遺産分割を勧めることが税理士の職務上の注意義務であるということはできない。

右のような要素を考慮した場合、原告典子が納付した相続税額のうちどの程度の金額を損害として認容すべきであるかが問題となるが、右(一)ないし(三)のうち、特に(二)の問題については、将来どのような順序でどのような相続が起こるか、その場合の相続税制がどのようになっているかの予測がかなり困難である。したがって、本件においては、裁判所において、民事訴訟法二四八条の趣旨も考慮の上、諸般の要素を考慮して、相当な損害額を認定するほかない。

原告らが被告に相続税の申告事務の処理を依頼した際、相続人間には遺産分割をめぐって何らの紛争もなかったこと、被相続人亡窪田市太郎に関する相続税の支払も残っているので、原告らとしては、今回の相続税額をできる限り低くしてもらいたいと考えていることを被告に伝えたこと、亡隆良の遺産には不動産が多く、その中には空室の多い貸家等まで含まれているため、その評価について納税者の見解と税務署の見解が異なる現実のおそれがあったこと、被告の過失の態様、被告の過失に対応した原告らの資料の提供及び点検の態様、原告らが次回以降の相続においてどの程度の相続税を支払うべきこととなるかについての現時点での大まかな予測その他の諸般の事情を考慮すると、原告典子の相続税納付に関して生じた損害は、九〇〇万円(理論上の今回の最小の納付税額と現実に納付した税額の差額の約三〇パーセント、原告らが被告に対して支払った税理士報酬の額の三倍に当たる金額)と認めるのが相当である。

3  被告に支払った申告費用分

原告らが被告に支払った相続税申告費用は、被告が行った相続税申告事務の対価として支払われたものであり、被告の過失によって原告らに生じた損害については、別途、賠償されるべきものとして認定している。したがって、原告らが被告に支払った相続税申告費用は、原告らの損害の中に加えられるべきではない。

三  過失相殺の要否

被告らは、被告の不法行為に関し、原告らにも過失があったとして、いくつかの事実を摘示する。しかし、これらの事実を直ちに原告らの過失と評価することはできず、また、原告典子の損害を算定するに際しては、被告が指摘する事実関係も総合考慮の一要素として検討しているのであるから、被告らの過失相殺の主張は理由がない。

四  結論

以上のとおり、原告らの請求は、原告博において一〇五万円、原告典子において一〇〇五万円、原告裕一において一〇五万円及びこれらに対する平成九年七月一九日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが、その余は理由がない。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官園尾隆司)

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